JF1DIR業務日誌(はてなblog版)

アマチュア無線局JF1DIRのアクティビティをつづっています。

NE612のAGC動作

無線機回路において周波数変換回路はIF生成回路の他にプロダクト検波やSSB変調などに適用され、非常に重要な回路であります。受信部のフロントエンドではNFが重視されることからダイオードと伝送線路トランスによるDBMが使われることが多いようですが、プロダクト検波やプリミクス回路など他のところではいわゆるギルバートセルICが多用されています。このICとして有名なのがモトローラのMC1496でしょうか。キャリア抑圧比が高いことからSSB波の生成にも使われていたはずですです。しかし外付け部品が多いため、TI社のSN56514, SN76514, SN16913P、NECのμPC1037などが多用されていました。しかしあっという間に在庫が付きてしまい今では入手しにくいICとなりました。その中でJRCのNJM2594とPhilipsのNE612(NE602も同じ)がおそらく現在でも製造されているためか、唯一入手しやすいギルバートセルミキサです。東芝のFM用ICのTA7358APGもミキサ回路が入っている入手しやすいICですが、リミタ回路が入っているため使いにくいとされています。

特にNE612はDIPパッケージで、45MHzまで使える発振回路が内蔵されているほか、入出力が平衡になっているので安定に動作させることが可能です。同調回路を取り付けたりLOのレベルを適切にすると最大14dBの変換利得が得られます。自作派にも人気があるミキサですが、KX1やK1などの無線機にもNE612が採用されており、回路をよく見るとIFアンプがありません。NE612の変換ゲインだけで済ませています。

ではAGCはどうするかというと、NE612の2pin(実際には1, 2pin)の電圧で変換利得を制御しているようです。1, 2pinはベースに繋がっているピンなので、入力段のバイアスがVbeよりも小さくなることで利得を制御しているのでしょう。この方法はNE612のデータシートには記載されておらず、いわば裏ワザみたいなものだと思います。KX1ではNPNトランジスタを介して電圧を制御しており、AF出力をダイオード検波した信号をこのトランジスタのベースに入れています。
そこで、AGCレベルを確かめるべくこのような回路を作って実験してみました。

試作基板はこちら。FCZコイルが付いている部分は別の回路です。

NE612のLOは5.67MHzの適当な水晶でこの周波数に特に意味はありません。入力に-30dBmの6.67MHzを入れて、出力を50Ωで受けて1MHzの信号を測定しました。AGC電圧に対する出力の変化と2pinの電圧の関係はこちらです。

このように、0.6VくらいからAGCが効き始めて1.0Vで飽和する結果となりました。直線性がイマイチで約-40dBのゲインダウンはAGCの効きとしては弱いのですが、平衡出力にするなどして変換利得を上げればまた違った結果になるかもしれません。