高速オペアンプによる無線機回路
短波のQRPトランシーバーを自作しよう去年から計画しているのですが、なかなか完成に至らずバラックの段階で放置しています。電波伝播が良くなるシーズンになると、運用の方に興味が移ってしまい自作のほうに集中できないのが主な原因でしょうか(汗)。試行錯誤しながらあれこれ試験回路を作って実験しているのですが、結局のところオーソドックスな回路に行き着いてしまって面白くありません。そこで設計方針を固めてみることにしました。それは高速オペアンプを使って回路を構成するということです。すべての部分をオペアンプで実現するのは難しいので要所要所にオペアンプを使う回路で行こうかと思っています。オペアンプで高周波増幅回路を構成することのメリットとして、
- 同調回路を使わないので低ひずみ、広帯域、省スペース、省コスト。
- 入出力インピーダンスが安定し、次段の回路に影響を与えにくい。
- トランジスタの場合、動作点(同調点やバイアス点)を変えるとゲインや歪みが大きく変わるが、オペアンプではその心配がない。
- ゲインを簡単に変えられるので、次段回路への接続が簡単。
- RF信号のアクティブフィルターやログアンプも可能。
- ゲイン可変アンプやトランスコンダクタンスアンプを使えばAGCや変調回路もシンプルに実現できる。
- 多種多様あるオペアンプを交換して遊べる(笑)。
があると思います。いかがでしょうか。一方デメリットとしては、
- ディスクリートによる狭帯域増幅器と比較し、低ゲイン。一段あたり電圧利得40dBがせいぜい。出力インピーダンスも高くなる。
- 10MHzより高周波になると使えるオペアンプが少なくなる(高価・入手難)。
- 回路構成や位相補償などが原因で周波数特性に変なクセ(ピーキング)があるので注意。
- 最近の高速オペアンプはSMDなのではんだ付けが難しい(汗)。
でしょうか。
まずは高速オペアンプを幾つか実験して適用可能かどうか調べているところです。トランシーバーの送信部、VFO(DDS)からの出力を増幅しパワーアンプに渡すドライバ回路に適しているだろうと適用を試みています。VFOの周波数は受信時はIFとの差の周波数を出力しますが、送信時はミクサを通さないで直接送信周波数を出力する、つまり7MHzバンドならばそのままDDSの出力は7MHz台になります。送信段の構成は、DDS-ドライバ-ファイナルの3段構成でパワーアンプの出力を約5Wとする予定です。
使用するDDSは貴田電子設計のキットKEM-DDS-VFO-MC50です。AD9834を採用しているせいなのか7MHzの出力が開放端0.22Vpp、50Ω終端で-16dBmとかなり弱いです。
RD06HHF1をドライブするには数Vppにまで増幅する必要があります。つまりドライブ段の電圧利得は数十倍あれば十分ということになります。
手元にある(入手しやすい)高速オペアンプのスペックを見ると、
型名 | GBW [MHz] | SR [V/us] | タイプ | 値段 [円] |
---|---|---|---|---|
OPA642 | 400 | 380 | 電流帰還型 | 300 |
OPA695 | 1700 | 4300 | 電流帰還型 | 300 |
LT1360 | 50 | 800 | 電圧帰還型 | 200 |
LT1399 | 300 | 800 | 電流帰還型 | 500 |
LM7171 | 200 | 4100 | 電圧帰還型 | 220 |
LM6364 | 175 | 300 | 電圧帰還型 | 500 |
LM6361 | 50 | 300 | 電圧帰還型 | 400 |
AD817 | 50 | 350 | 電圧帰還型 | 150 |
AD847 | 50 | 300 | 電圧帰還型 | 500 |
NJM2137 | 200 | 45 | 電圧帰還型 | 100 |
とあります(値段は購入時のおおよそです)。GBWが100MHz以上、SRが400V/us以上のものが使えそうな感じです。またOPA642のデータシートを見ると5MHz台のアクティブフィルタの例もあり種々の回路へ応用が効きそうです。まずは使いやすい電圧帰還型で以下のような回路で三菱のRF FETのRD06HHF1をドライブしてみました。設計電圧ゲインは40dBで電源電圧は12Vです。
試験回路はユニバーサル基板で組んでいます。DDSの出力周波数7MHz時、FETへのアイドリング電流500mA時の実験結果は、
オペアンプ | ドライブ段の出力電圧(開放端) [Vpp] | ドライブ段の出力インピーダンス [Ω] | 終段の出力 [W] |
---|---|---|---|
LT1360 | 2.20 | 52 | 0.9 |
LM7171 | 4.94 | 16 | 5.5 |
LM6364 | 4.36 | 85 | 4.0 |
LM6361 | 1.43 | 85 | 0.3 |
AD817 | 1.60 | 47 | 0.5 |
となり、数十倍のゲインを稼ぐオペアンプが適当のようです。中でも値段の割によく動いてくれるLM7171がFBな結果になりました。QRP機ならばこの構成で行けそうです。もちろん周波数が低くなるとさらに利得が上がり他のオペアンプでも十分な性能が出ると思います。他のオペアンプや電流帰還型も試す予定です。