野家啓一『科学哲学への招待』
またネタぎれ気味なので書評などを。
- 作者: 野家啓一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2015/03/10
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (6件) を見る
科学哲学は日本ではあまり馴染みのない言葉でありますが、科学論や科学社会学をも含む哲学の一分野であり、科学という知的活動を対象とし哲学的に考察することと定義できます。伝統的に分析哲学をベースに始まったことから哲学の中ではかなり分かりやすい分野で、特に当局のように科学や技術の現場にいる人間にとって科学哲学で展開される議論や知識は日々の実体験として腹に落ちるところが多く、若い時からよく勉強しておりました(役に立つかどうかは別にして)。
従って、科学哲学の入門書は数多く読んできたのですが、本書は非常にわかりやすい上に、話題が少し広い領域にまで多岐にわたっており、非常に面白かったです。野家先生といえば日本でも有数な科学哲学者です(長年東北大で教鞭をとられているほか、日本哲学学会の会長も務められたほどの重鎮)。また本書は以前、放送大学の印刷教材として出版されていたのですが、放送大学のテキストは絶版になると非常に入手が難しいので、今回のちくま学芸文庫への収録は大変助かりました。
普通の科学哲学の入門テキストならば、科学哲学の代表的なトピックス、つまり推論の方法、論理実証主義批判、科学認識論や科学的説明などの科学的方法論についての説明が多いのですが、本書では科学哲学の歴史をたどった構成が中心になっています。中心となる科学哲学の話題に入る前に科学史を、最後には科学社会学へ展開しているのが特徴と言えます。最近の(クーン以降の)科学社会学については断片的な知識しかなかったので、本書を読んでよく整理することができたと思います。
科学技術に携わっている人間にとって科学哲学は役に立つかどうか。実は正直微妙であります。しかしファインマンが言うような「鳥にとっての鳥類学」はかなり揶揄が過ぎています。科学哲学で展開される種々の科学の方法論は、確かに批判的思考力を養う上では役に立っていると思いますが、「仮説演繹法」「反証可能性」「理論負荷性」などの概念は科学哲学から教えられることなく、自然と身についているものですし、その適用範囲と限界も体感としてわかっているのです。だから科学の現場ではソーカルが指摘するように、極端な認識的相対主義は科学者にとって嫌われるのも十分理解できます(特にクーンやファイヤアーベント)。
とは言え、科学という営みは結構面白いものです。それを哲学の問題として概念化し、また社会学と結びつけていく営みもまた知的に興味深いと思っています。