JF1DIR業務日誌(はてなblog版)

アマチュア無線局JF1DIRのアクティビティをつづっています。

今年の読書体験

今年は割とたくさん読書しました。きっかけは2つあります。一つはルース・レンデルという昔から気に入っているイギリスのミステリー作家が今年の春に亡くなったのです。彼女の著書はほぼ買い込んでいたのですが、まだ読んでない(いわゆる積ん読状態)のが数冊あり、訃報を聞いたのをきっかけに慌てて未読を片付けたら、レンデルの魅力にどっぷりハマってしまい、それ以来読書グセが着いてしまったというわけです。ルース・レンデルのもう一つの名義である、バーバラ・ヴァインのノンシリーズ小説が文学的であり中でも『煙突掃除の少年』は味わい深い名作だと思います。日本でもっと評価されて良い作家だと以前から思っているのですが(ミステリマニアしか知られていないのでは)。

煙突掃除の少年 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

煙突掃除の少年 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

未翻訳の著書が10冊ほどあるので、刊行が待ち遠しいです。
もう一つのきっかけは自炊です。以前ココで紹介したように、蔵書の殆どを自炊しました。物理的本として一部残したものに以前熱心に読んだ谷崎潤一郎の文庫があり、再読してみたら他の谷崎作品も読んでみたくなり、せっかくだから全書を買ってみたというわけです。蔵書を自炊して片付けたのにさらに蔵書が増えてしまった悪循環に陥りました(苦笑)。
おそらく今年だけで全部読み通したのは5, 60冊で、途中で放置したものやパラめくりしたのも含めると100冊以上読みました。ほとんどが小説で評論や随筆も。当たり外れがありましたが、なかなか実りの多い読書体験でした。いつかピックアップしてみると・・・

谷崎潤一郎
谷崎潤一郎の菊判の全集を買って、結構読み進めました。谷崎の著名な作品はほぼすべてこの全集で再読しました。長い『細雪』と『源氏現代訳』はまだ読んでいません。谷崎の小説は筋も含めて文章のアクが強かったりわざとリーダビリティを落とす文体が多いので、小説ばかり呼んでいると疲れてきます。そこで箸休めに谷崎の随筆や評論文もじっくり読んでみたら、相当に面白いのです。文化評論『陰影礼賛』が有名ですが、大阪に関するエッセイもなかなか。ちなみに谷崎のベスト3は『吉野葛』『春琴抄』『鍵』。特に吉野葛岩波文庫版がおすすめです。図版が挿入されており紀行文っぽい雰囲気が味わえます。

吉野葛・蘆刈 (岩波文庫 緑 55-3)

吉野葛・蘆刈 (岩波文庫 緑 55-3)

小熊英二
社会学者の小熊英二はあまり好きじゃないのですが、岩波新書の『生きて帰ってきた男』は小林秀雄賞受賞し(新書では珍しいのでは?)とても評判が良いので、手に取って読んでみたら、一気に読んでしまい、最高の読書体験でした。1925年生まれの著者の父の人生をたどりながら、民衆史の視点で戦争史を淡々と語っていく。中でもシベリア抑留生活のところが興味深く、映画で観るような壮絶な光景とは少し違った。この本をきっかけに大岡昇平の『俘虜記』なども読んでしまい、コレはコレでいろいろ考えるべき多い書物で感心しました。

多和田葉子
村上春樹がもっともノーベル文学賞に近い日本人と言われていますが、多和田葉子ノーベル文学賞取りそうな作家だと思っています。ドイツに暮らしドイツ語で執筆活動して向こうの賞も取っている結構珍しい作家で、何冊か初期の小説を読んで気に入っています。最近読んだ岩波新書の『言葉と歩く日記』はドイツ語と日本語の二つの言語を操るときに思うことを中心に書いた日記(というよりはエッセイ)です。なぜ岩波新書なのか最後まで謎なのですが^^;、作家とはいつもこんなことを考えているのかなと、興味深いものばかりで実に感心しました。これをきっかけに彼女の小説をいくつか読んで、さらに感心しました。

自伝文学
著名な作家はだいたい「自伝」を書き残しており名作も多いと思います。太宰の『人間失格』や谷崎の『異端者の悲しみ』『幼年時代』も小説仕立ての自伝と言えるでしょうか。今年は自伝をたくさん読んでみました。中でも自伝文学の2大巨頭(と勝手に名づけました)の福沢諭吉福翁自伝』とフランクリン『フランクリン自伝』はやはり関心しました。どちらも高額紙幣の肖像であるなど共通点が多かったりします。他にもカンジー湯川秀樹松本清張ラッセル、藤沢周平カーネギーなどの自伝も読んでどれも感心しました。

新訂 福翁自伝 (岩波文庫)

新訂 福翁自伝 (岩波文庫)

フランクリン自伝 (岩波文庫)

フランクリン自伝 (岩波文庫)

今年の後半は漱石を読みなおすつもりだったのですが、多和田葉子、宮下奈都や川上未映子などの現代作家や円城塔などのSF作家にも手を出してしまいなかなか積ん読が減りませんでした。翻訳モノも光文社新訳文庫が頑張っていて読みたいのがたくさん出ています。また、河出から出ている池澤夏樹個人編集の全集などもどんどん出て、割りと評判が良いようです。古典の現代訳は買って読みました。読みたいものが増えて困っていますが、来年も楽しみです。