JF1DIR業務日誌(はてなblog版)

アマチュア無線局JF1DIRのアクティビティをつづっています。

同軸フィルターの実験と製作

コンテストのマルチオペマルチバンド(M/M)運用する際に、アンテナやリグが近距離にあるためにバンド間に干渉を生じ運用できないことがあります。受信回路に妨害波が直接飛び込む場合やコモンモード経由で悪影響する場合は対策が厄介ですが、妨害波がアンテナや同軸ケーブル経由で侵入し受信機へ影響する場合は、リグとアンテナ間にフィルターを設ければある程度緩和することができます。運用バンドのみを通過するバンドパスフィルターでは送信電力に耐えないといけないので、高価で自作するにも結構たいへんです。しかし、妨害波だけを除去できればいいのでバンドパスではなく妨害波に対するノッチフィルターとしリグとアンテナの間に並列接続すれば、フィルター自身には大きな電力が通らないので設計が簡単になります。ノッチフィルターは伝送線路の性質をうまく使った同軸スタブ回路で安価かつ簡単に作ることができます。

詳細な説明は省きますが、末端の処理をオープンにするかショートにするかで同軸長とインピーダンスの関係が変わります。

スタブ 0
ショート L=n/2λ L=(2n-1)/4λ
オープン L=(2n-1)/4λ L=n/2λ

ここでLは同軸長、λは波長、nは自然数です。実際の同軸長は短縮係数(多くは約0.66)を掛けた長さになります。インピーダンスが0になったバンドでノッチされ、∞になったバンドで運用可能となります。ショートスタブとオープンスタブをうまく組み合わせば(並列に接続)、だいたいのバンドの信号を除去できることになります。

早速いくつかの同軸フィルターを作ってみました。測定はminiVNAで行いました(50Ωのダミーを付けず測定)。例えば、80m 1/2λショートスタブ(同軸長28m)では下図のような特性になりました。80, 40, 20, 15, 10mでインピーダンスが最小かつリアクタンスが0になりノッチされ、インピーダンスが高い160mで運用可能となります(SWRに影響されない)。幸い、160mのリグにこれを取り付ければ全てのコンテストバンドからの干渉を防ぐことができることになります。

次に、40m 1/4λオープンスタブでは、下図のような特性になります。このスタブでは40mと15mがノッチされ、20mまたは10mで運用可能であることがわかります。

他のバンドは通過してしまうので、別のフィルターと並列に接続し対応することになります。例えば、国内コンテストでは40mを常時運用にしたいので、他の全てのバンドからの干渉を極力防ぎたいとすると、80m 1/4λオープンで80mをカット、さらに、20m 1/2λショートで20mと10mをカットすることができます。
まとめてみます。

スタブ 運用バンド ノッチバンド
80m 1/2λ Short 160m 80m, 40m, 20m, 15m, 10m
80m 1/4λ Open 40m, 20m, 15m, 10m 80m
40m 1/2λ Short 80m 40m, 20m, 15m, 10m
40m 1/4λ Open 20m, 10m 40m, 15m
20m 1/2λ Short 40m, 15m 20m, 10m
20m 1/4λ Open 10m 20m
10m 1/2λ Short 20m 10m

しかしここで問題です。上の表で分かるように、40mを運用しているときに、40mの3倍高調波で厄介な15mからの干渉を防ぐことができません。例えば、15m 1/4λショートスタブをつなぐと15mでノッチされるのですが、40mでは3.6+87jΩとなるので、これを取り付けるとSWRが高くてなってしまい40mの運用ができません。

そこでまた別の同軸スタブを並列に接続しリアクタンス補正するという方法がK2TRにより提案されています。40mの1/4λオープンの途中に15m 1/2λショート分で分岐させるという形で15mに対してノッチするのですが、実際にやってみると、

確かに15mでノッチ、40mでインピーダンス最大になってくれます。上手いこと考えましたね。他にもYAAトラップという方法で15mバンド運用時の40mノッチを実現できます。

この15mを除去する40m用フィルターが実際にどのくらいの効果があるのか確かめてみました。7MHzのモビホにフィルターを付けてスペアナで受信します。約3m離れた別の21MHzのモビホに10Wの電力のCWを送り、どのくらいの強度で受信されるかを確認してみました。まずはフィルターを付ける前。左の幾つかのピークは7MHz台の放送波で、右の大きいピークが7MHzのアンテナで受信した21MHzの信号です。

次に15mノッチの40m用フィルタをスペアナとアンテナの間に取り付けます。

のように、約35dBほど信号を減衰することが出来ました。なかなかの性能だと思います。当然、リグに取り付けて送信してもSWRは高くならず動作OKでした。

かさばりますが安価で簡単にM/M用フィルターを作ることができました。実際の運用でどのくらいの効果があるか機会があれば確認してみます。