JF1DIR業務日誌(はてなblog版)

アマチュア無線局JF1DIRのアクティビティをつづっています。

スイッチング用パワーMOS FETによる小型DCアンプ

しばらくハム関連RF系の工作ばかりやっていたので、だんだんとアンプ製作の虫がうずいてきました(笑)。普段毎日使っているアンプ(主にPCで聞いている音楽)には、終段バイポーラTrのディスクリートDCアンプを使っています。黒田徹氏の回路を参考に作ったもので、初段コンプリJFETの対称回路で、差動2段よりも作りやすい感じがして音も良く割と気に入ったアンプでした。近頃飽きてきたのと(笑)、弁当箱ケースが気に入らなくなったので、ちょっと変わって簡単だけど音が良さそうなアンプを作ってみました。ケースは少し予算をかけてタカチのOSシリーズを使いました。

PCの横に置いて6畳間の書斎で軽く動かすアンプなので10W以下でOK。電源は別筐体になっていて、±20Vの正負両電源が確保されています。一番下の写真にもありますが、金田式の差動2段対称式*1をパクって試験回路を組んでいたのですが、安定して動かずことができず(苦笑)、シャーシスペースの都合もあるので、初段をJFET入力のオペアンプにしました。シングルでオフセットトリミングできるμPC813Cを使ってみました。SRが13V/us*2あるので音質的にも安心でしょうか。終段は普通のオーディオ用の素子では面白くないので、超安価なスイッチング用のパワーMOSFETを使ってみました。手持ちの都合で、インターナショナルレクティファイアーのIRF640/IRF9640*3を使いました。Vdss=200V*4, Id=18A*5, Pd=125W*6なのでこの規模のアンプにはちょうど良いかと(むしろ大きすぎる)。この手のFETは小型スイッチング電源やD級アンプなどに採用されており大量に出回って、Mouserで$0.88で買えるほど超安価な石*7です。オペアンプと終段FETを直結してシンプルにしました。

スイッチング用FETをオーディオアンプで使うときの注意点としては、
(1)Vgs*8がかなり大きい。電源電圧の利用率が悪くなると言うことでしょうか。IRF640はVgs=4Vくらいでやっと動き出します。なのでVccから常に4V削り取られてしまうので効率が悪いね、ということです。まぁ、アンプの規模が小さければ深刻な問題ではありません。
(2)Pchコンプリが見当たらない。これは致命的です。特に海外製のMOSFETにはPchの石が少ないです。IRF640はたまたまIRF9640というPchコンプリがあります*9。しかし、データシートを見るとgfs*10とCiss*11がNchとだいぶ異なります。オーディオ帯域でソースフォロワで使う分には深刻な影響がないと勝手に解釈しました。また、ペア選別*12すればなんとかなります。
(3)バラツキが大きい。安価で買えるので大量に買って選別するという手が使えます。本アンプ製作ではオン抵抗R(on)の選別のみやりました。Vgsやgfsの選別はやっていません(できません)。
他にもあるかも知れませんが、本回路で動かす分にはそれほど気にならないと思われますので、書きません。


利得を20dBとし、保護回路*13や遅延回路*14などは付けていません。アイドリング電流*15を30mAくらいにして(Vgs約3.9V)、放熱器はなるべく小さくしました。ソース抵抗は0.22Ωとし、温度補償素子*16として2SC1845を熱結合しています。10時間ほど連続運転しましたが、特に問題はありませんでした。ちなみにアイドリング電流を10mA以下にすると、見事にスイッチングノイズ*17が出てきました。コンプリペア選別をもっと厳密にすればもう少し電流を絞れるのですが。連休中、ゆっくりと作ろうと思ったのですが、雨で外に出るのがうっとうしい日が続いたので1日で作ってしまった。

さて、出てきた音ですが、最初はシャリシャリした感じの音でしたが、2〜3時間動かすと落ち着いたのか*18、耳が慣れたのか(苦笑)、しっかりとした音になりました。ポップス、クラシック、ジャズと一通り試聴しましたが、クラッシック系も割と聞ける音になり、満足です。

今回はTO220サイズの石を使いましたが、TO3PサイズのIRF140/IRF9140のペアも作ったことがあり、割によい音が出ました。超安価なFETを活用してみてはいかがでしょうか。


※ちなみに、写真2枚目のアンプの右にある装置は、M-AUDIOFAST TRACK PROというUSBオーディオインターフェイスです。PCからこれを経由してアナログソースとしています。




金田式モドキの差動2段ダーリントンコンプリエミッタフォロワDCアンプ。電圧増幅段は全てデュアルトランジスタ(シングルラインの黒い石)で作ってみた。安定して動かなかったので試作どまりになってしまった。

*1:元大学教授のオーディオ製作記事投稿者、独特の世界観をお持ちのようです

*2:スルーレート:大きい方が高速に動くが、位相補正をしっかりやらないと発振する場合があるので注意。

*3:Pch の IRF9640は現行品種ではないようです

*4:最大ドレイン-ソース間電圧

*5:最大ドレイン電流

*6:最大ドレイン損失@25℃

*7:Vishey社製が一番安いようです

*8:ゲート-ソース間電圧、これ以上の電圧を掛けないとドレイン-ソース間に電流が流れてくれない

*9:あくまで数値上

*10:順伝達アドミッタンス:ゲート電圧増加あたりのドレイン電流増加値、大きい方が感度がよい素子

*11:入力容量:ゲート電極とソース/ドレイン電極の間に絶縁物である酸化シリコン膜が挟まっているのでキャパシタの構造になる。そのキャパシタンス。大きい方がゲートを開くのに、より多くの電荷を要する

*12:N/Pchと同じ特性の素子の対を選び出すこと。結構大変な作業

*13:何らかの誤動作や事故でスピーカーに過大電流が流れないように保護する回路

*14:電源をon/offする瞬間にボツッとポップ音が出ることがあるので、電源onしたしばらくたってからスピーカー端子を接続、電源offする前にスピーカー端子を切り離すタイミング回路

*15:出力段がAB級コンプリメンタリプッシュプルにするので、無信号時に流しておくドレイン-ソース電流。大きいほど歪みないが、効率が悪い

*16:トランジスタの温度が高くなるとより電流を流す方向に変化するので、その傾向を直すようにする素子。一般にシリコンダイオードやバイポーラトランジスタなどのpn接合のバイアス電圧変化を利用する

*17:動作する素子がP→Nに切り替わるときに電気特性が不連続になると出てしまうノイズ。防ぐためにはアイドリング電流を流して、P/Nで同特性の素子を使用する

*18:いわゆるエージングという操作、トランジスタアンプの場合、なにがどうなるのか知らない